「願わくば、また、貴方に逢えることを」
彼が死んだ。人間なのだから、己よりも早くその天命が尽きることなど、重々承知している。今迄数えきれない程の人間の、否それだけではない。あらゆる生命の生と死を見届けてきた。
自分には朽ちる肉体がない。ただ、魂がこの時の中に在り続けているだけだ。その魂を護るためにしかない肢体は損壊しても魂がある限り新たに作り直せる。だから、あらゆるものが息吹をあげ、息を引き取るその瞬間をただただ、そうあるものとして見届けてきた。それは全て神が仕組んだことなのだから、その下にいる限りどうにかなるものではない。だから、彼が死んだところで何も思うことはない。
筈だったのに。
「願わくば、また、貴方に逢えることを…」
願ってしまった。こともあろうに自分が。本心から、願ってしまった。
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「初めまして。私は-…」
気付いた時には既にお決まりの言葉を口にしていた。本当は別の言葉をかける筈だったのに…。
本で彼を見つけた時、ひどく懐かしい気持ちが湧き上がった。初めて見つけた筈なのに、彼とはどこかで出逢った、気がする。実際に会えば分かるかもしれない。気のせいならそれまでだし、そうでないなら…。
そんな好奇心で彼を喚び出したが、私は後でそれを後悔した。言葉を口にした際、見てしまったのだ。その海のような瞳に映る、少しの諦めと哀しみの色を。
(ここで文章は途切れている)